考え方
最低限の自立
人が安心して、永く、幸せに暮らせる生活を維持するためには、最低限の自立が必要です。最低限の自立とは「エネルギー」「住環境」「地域経済」という3つの側面で考えることができます。人も暮らしも地域も自立することで、快適や健康につながるのです。
エネルギー
東日本大震災や2018年9月の北海道胆振東部地震、それに伴う大停電を経験し、エネルギーを考え直した方も多いと思います。私の事務所では、以前から住宅の電力依存を減らす設計に取り組んできましたが、大震災以降はオフグリッドエネルギーを少しでも建築に取り込もうと考え、最初に取り組んだのがオフグリッドソーラー発電でした。
オフグリッドエネルギーとは、送電網などに頼らない自前エネルギーのことで、中でも最も注目しているのは、薪やペレットなどの木質熱エネルギーです。熱さえ確保できれば、大停電が冬に起きても、暖がとれ調理もでき、生き延びることができます。薪など木質燃料は再生可能エネルギーで、理屈上は森林資源の成長量以下の使用量であれば供給が持続できることになります。そこで薪などの熱エネルギーを電気に変換せず熱のまま有効に利用することが重要です。
もう一つ重要でありながら軽視されているのが、省エネルギーです。省エネ設備が出回っていますが、基本は設備に依存せず建築の省エネルギー性能をできるだけ上げることです。冬に「少ない燃料」で暖房ができ、「暖房が途絶えても」室温低下がゆっくりであれば、緊急時も不安が減ります。仮に薪ストーブで全館暖房するには省エネルギー性能が重要で、悪いと頻繁に薪をくべることになり、消費量も膨大で、住民にも環境にも良くありません。
住環境
「少ない燃料で」暖房ができ、「暖房が途絶えても」ゆっくり室温低下する住まいを実現するためには、断熱・気密性を高め、温度ムラが少なく、それに伴う換気計画がとても重要です。断熱・気密性を高めることに関し北海道の工務店はとても進んでいます。一方、設備に頼らず、空気と熱の性質を利用し空気を入れ替える換気計画が重要なのですが、写真などで見ても若干わかりづらいことが原因の一つか、設計者にすら理解が進んでいません。しかし、空気の流れを計画することは、快適さのみならず健康にも大きく影響します。さらに停電時でも最低限の換気が得られるような計画が必要です。また夏エアコンなどに極力依存しない排熱計画を立てると、夜間にとても快適になります。
現時点で暖房は温水セントラルヒーティングですが、燃料がガスや灯油でもポンプなど電気で動かすので、停電時は役に立ちません。そこで頼りになるのが薪ストーブ。ただ熱源が一ヵ所なので、特に浴室など区切られた空間にいかに熱を送るかがポイントとなります。写真の実例では煙突をユーティリティ内に設置して、そこからの放熱で浴室を含め暖める設計です。事例で薪ストーブ使用時は、セントラルヒーティングは自動的に止まりガスの消費削減にも効果があります。
内装仕上げは、好みや見た目で済まされているようですが、単なる好み以上に大切です。目から入る刺激や触れている部分からの刺激は、温かさ、涼しさ、落ち着きといった部分に影響を与えます。私が良く使う素地にオイルを塗っただけの木材や漆喰などは、暮らす方のストレスを減らし安心を与えるものと考えています。
地域経済
人が安心して、永く、幸せに暮らせる生活を維持するためには、地域との関わりがとても大切です。人は周辺とのかかわりを持たずに暮らしていくことは難しく、地域が健全であることはとても大切な要素です。
皆が家を建てるとき地元に近い木材を使い、地元の人の手で完成させることができれば、建物に支払う費用の大半が地域に流れます。同様に化石燃料や電気の利用を減らし、地元で出る薪やペレットで暖房ができれば、お金の流れのみならず自立意識が大きく変わります。しかし、現実は全く逆行し、現場はできるだけ大量生産されたものを使い、人にスキルをもとめない方向に進んでいます。これでは、せっかくの大金を払って家を建てても、そのお金がほぼ地域の外に流れてしまい、地域は確実に衰退します。
私たちは地産材を極力使い、現場で職人が使いつくるような設計をします。木にこだわる理由の一つは人が加工してつくれるからです。例えばキッチンや洗面化粧台等を木製にすると、大工さんか、木工場でつくることができます。使う方に合わせ高さなど自由に決められますし、実際に使ってみると既製品より使いやすく、メンテナンスも決して引けを取らないことが実証されています。せっかく高い買い物をするのですから、そのお金が地域でしっかり回ることが大切で、地域を守ることになると思います。そこで共通に必要なものは個人も地域も自立する心なのです。