考え方

住み継ぐ家

残念なことに日本では、築年数を重ねると家の価値はどんどん下がるという認識が根強くあり、リノベーションはその価値を再生させるものとして注目されています。果たして、本当にそうでしょうか?住まいのつくり手として、住まいの再生の前に大切にしたいこと、価値について改めて考えたいことがあります。

長い年月を受け入れる建物を計画する

中古の住宅を改修して永く大切に使う。ゴミを減らし、経済的で資材の節約にもなり、持続可能な未来のためにとても大切なことだと思います。さらに改修することにより、断熱性や耐震性が飛躍的にあがれば、快適になるうえ省エネルギーで安心という付加価値が付きます。日本より木造住宅のライフサイクルが圧倒的に長いヨーロッパの寒冷地では、100年経った住宅自体に不動産価値があり、先を見据えた改修は古くから常識となっています。さらに近年、政策的にも高断熱化や省エネルギー改修に拍車がかかっているようです。

もちろん日本でも多くの建物が改修され大切に使われ続けたら良いのですが、ここで水を差す話です。

私たちも中古住宅改修の相談を受けます。調べると建物のほとんどは、耐震性、省エネルギー性、機能性や快適な住環境を成り立たせるには新築に近い改修コストがかかり、かつ新築には及ばないという残念な結果となってしまいます。木造建築の耐久性の話以前に、建築計画そのものに問題があります。家族の構成、嗜好は10年と経たぬうちに変化します。にもかかわらず、時間の変化を考慮せず、その場、その時の思い付き、流行で住宅は建てられてきました。そのような建物を見た目だけ新しく、おしゃれにしても本質的な部分では何も変わりません。

本当に必要なのはリノベーション不要な家

これまで私たちが手掛けたお宅は、築15年以上経っても改修が必要になるのはボイラー、暖房配管と給水管の一部とすべて設備系に集中しています。住宅建築本体そのものは人間の平均寿命以上であると考えています。

無垢板キッチンは、予想以上にメンテナンスしやすく、手触りが良く、長く愛着をもって使うことができ13年ほど前から設計に取り入れています。薪ストーブはとても魅力的ですし、設計次第で建物全体を暖めることも可能な暖房です。災害に強く、薪の調達次第では、経済的でもあります。内装のプラスター塗り壁は、安全性の高さだけではなく、素朴な質感と傷が目立たず、ほこりも付きづらく、この20年で塗り替えた方はいらっしゃいません。板材素地を生かした外壁は、古びていく変化が楽しめ実は長寿です。新しいのが一番というのとは全く違う価値観ですが。

今私たちが取り組むべきこととしては、長い年月住み継がれる器をつくることだと思っています。そして住宅の価値が品質によって社会的に評価されることです。残念ながら、これまで日本で社会資産となるような視点でつくられ、残った住宅は極めて少ないのが事実です。世代交代や住み替えごとに建て替えられることが当然でしたし、とても問題なのはそれが現在も進行中だということです。日本特有の不動産、建設業がこのようなスクラップ&ビルドを繰り返す現状と共存してきたことも関係があるのでしょうが、持続可能なあるべき未来の姿には結び付きません。衣料ファッションのような感覚で住宅を建てる方も多いですが、そう簡単に服装のように着替えるわけにはいきません。

今私たちが取り組むべきことは、長い年月住み継がれる器をつくることだと思っています。そして住宅が築年数にかかわらず資産として社会的に評価されるようになることです。構造、形状がシンプル、平面計画に無理がない、断熱性がある程度高い、といった基本的なことが満たされ初めて、リノベーションの本当の価値が出てくるのだと思います。


24年目の家

恵庭市・K邸・1995年竣工

1995年に設計しました。外観は1階部分はセメント板に塗装、2階部分はマツの下見板張りにオイルステイン、とても重要な軒の深いデザインです。室内の壁は水性塗料、道産広葉樹の床板、無垢の構造材を天井に現し、建具、テーブル含めオイルステイン仕上げでワックスをかけぬようお願いしました。竣工からの23年間で外壁を1回、木製サッシを2回塗装し、設備配管の一部とボイラーを交換しています。

1997年にリプラン誌面で紹介され、改めて2012年に取材していただきました。下の左右の写真は、右側が1997年、左側が2012年に撮影したものです。2回目に取材に来られたライターの方が、床板、梁、テーブルの天板の美しさに驚き、どのような手入れをしているのかお施主さんに尋ねました。「宮島さんから、掃除機をかけるだけにしてください、と言われたのでそうしています」と答えておられました。

築16年当時
築16年当時
新築当時
新築当時

自然素材で再生可能な木材は適切に扱えば、長い年月をかけてどんどん魅力的に変化していきます。さらに仕上げ材は、視覚、手や足触り、香りまで人に影響を与えます。無垢の木材は良好な住環境のためにも重要な材料です。

当時では珍しく性能測定を行いました。断熱性能Q値1.39W/㎡K・気密性能C値0.5㎠/㎡とかなりしっかりとした値です。今後特に大規模リフォームの予定も必要もなく、快適に住まい継がれることでしょう。


引き継がれる暮らし

京都市・K邸・2016年竣工

「24年目の家」のお施主さんが、京都に住む息子さん家族と将来暮らしていくための二世帯住宅です。夏は暑く、冬の寒さも厳しい京都で、季節を問わず快適に暮らすためには高性能な家がいいということ、素材やデザインについても北海道で建てた家を気に入っていただいていたことから、再びお声がけいただきました。

断熱・気密は京都でも、北海道の仕様に準じています。夏の湿度が高いエリアでは北海道の仕様は向かないという人もいますが、冷房で冷やしすぎない限り逆転結露も起きません。むしろ断熱性に加えて、日射遮蔽や通風をいかにきちんと計画するかで快適性が変わってきます。こちらのお宅のダイニングでは、1台のサッシの中の室内側にペアガラス、外側に単板ガラスが組み込まれる構成の高断熱木製サッシを採用しています。2つのガラスの間にブラインドを内蔵させることにより、日射熱を室内に入れる前に大幅にカットすることができ、夏場のオーバーヒートを抑える効果があります。

Kさんご夫妻は数年間は北海道に住みながら、休みに合わせてこの京都の家で過ごす予定だということ。こうして場所や世代が変わっても引き継がれていく暮らしを支えることができるのは、とても嬉しいことです。


住み継がれる家

札幌市・Y邸

2002年に建てられた住宅の17年後の様子です。軒の深い板壁の外観、シンプルな構造現しの室内など基本的な考え方は変わりませんが、このころから開放感、耐震性、換気に有利なリビング・ダイニングを2階に配置するプランが増えてきました。12年間住まわれたご家族が茶道教室を併設する二世帯住宅を建てることになり、このお宅を私たちの設計に理解のある方に購入していただきました。この時点で暖房設備とボイラーを交換しています。

しかし、仕事の事情で3年後また売却されることになり、新たに住まわれた方は、浴室の床をタイルから掃除のしやすい塗床に変更し、15年間使った木製浴槽は、うっすら出てきた黒ずみを削り、外側にオイルステインを塗り、再利用することになりました。ほんのわずかのリフォームコストで快適に住まわれています。

住まう方が3組も変わりながら特に問題なく暮らすことができ、浴室環境などは建築当時より快適になりました。植えた樹木は立派に育ち、庭ははるかに美しくなりました。実際に転売時も価格は相場ほど下がりませんでしたが、これが海外ですと逆に価格が上がっていたかもしれません。私は建物が築年数ではなく、性能、耐久性、適応力によってその価格が決められるべきだと考えています。