考え方
快適さと省エネの両立
住まいづくりの第一の目的は、『安心して快適で健康的に過ごす場を得ること』です。断熱性能を高めたり、省エネルギー型の設備機器を使うことは良いことですが、そればかりに囚われてしまうと最も大切なことを見失ってしまいます。私たちフーム空間計画工房では、体感温度を考慮した省エネルギー住宅の設計を行っています。
冬に室温が25℃以下では寒いと感じてしまう部屋があります。一方、21℃で快適に感じる部屋もあります。なぜなら室温と体感温度はそもそも違うからです。体感温度とは、実際に人間が感じる暖かさや寒さのことです。たとえば、冬の風が無い日と強風の日。同じ外気温でも、より寒く感じるのは強風の日です。このように快適さと深く関係しているのは、空気の温度よりも体感温度なのです。
表面温度
外壁に面した壁や窓の内側、特に直接手や足が触れる床などの表面の温度が低いと、室温が足りていても体温を奪ってしまいます。
表面温度が下がる一番の原因には、建物の断熱性、特に窓の断熱性能の低さが考えられます。断熱性が高ければ熱損失(建物から逃げる熱量)が減り暖房エネルギーを減らすことができますし、同時に壁と窓の表面温度が上がります。そのため体感温度が上がり、室温を少し下げても快適になり、さらなるエネルギーの節約になります。
このように断熱性能を上げることは、健康で快適で、さらに省エネルギーにおいて最も有効です。当然建築コストは上がりますが、許される範囲で高めることをお勧めします。北海道、東北の寒冷地は高性能グラスウールを屋根で300ミリ前後、外壁で200ミリくらいはほしいところです。さらに断熱材を厚くすることももちろん好ましいのですが、同時に暖房計画をしっかり立てることが大切です。
暖房計画
表面温度に大きく関わり、さらに目や喉の粘膜の乾燥感を含めて健康面や快適さに影響を与えるのが暖房計画です。私たちは自然対流以外に空気を動かさない温水パネルヒーターによる輻射暖房を採用しています。
仮に室温と壁・窓・床の表面温度が同じでも、気流によって体感温度は大きく変わります。エアコンやファンヒーターなど温風を吹き出す暖房の場合、室温を素早く上げることができますが、秒速0.5メートル程度の気流が発生します。直接体に風が当たらなくてもこの気流によって、暖房しているにもかかわらず体感温度を4℃ほど下げてしまいます。気流が無ければ21℃で快適と感じていても、気流が大きければ室温を25℃くらいまで上げないと寒く感じることになります。しかも室温が上がると湿度は下がりますから、微風でも気流が当たると粘膜を痛めてしまいます。このようなことから、気流を発生させる暖房設備は省エネルギー的にも住環境的にも矛盾が多いのです。
一方で温水パネルヒーターによる輻射暖房は60℃以下の温水で床や壁、窓をやわらかく暖めるものです。直接空気を動かさないので、急に室温を上げるには不向きですが、体感温度を上げることができる理想の暖房の一つです。
より快適で省エネルギーにするために、温水パネルヒーターの大きさや配置は断熱性能や間取り、窓の場所に合わせて計画します。特に熱が逃げやすい大きな窓下、玄関近く、さらに乾燥が必要な浴室などの水まわりを重点的に暖めるように配置します。室温を上げるというよりも体感温度を高めるイメージです。断熱性能が高ければパネルヒーターを小さく・細くできますし、暖房回路を単純化でき、建築コストを下げることも可能です。
換気計画
換気計画は、暑い夏も寒い冬も健康的で快適に暮らすために必要です。換気計画というと、どんな24時間換気システムを入れるかを検討するイメージを持つかもしれませんが、それは違います。仮に換気システムが無くても、窓の配置が良く、住まう方が季節や天候を考慮して窓を開け閉めできれば、これも立派な換気です。高額・多機能な換気設備にする・しないの話ではありません。
冬に換気量を増やすと、断熱性能を上げても熱を外に捨てることになります。そこで熱交換換気システムを採用すれば、排気の熱で給気を暖めることができるので、換気による熱損失を大幅に減らすことができます。ただし給気に配管を使い、熱交換部分もあるため、こまめなクリーニングやメンテナンスをしないと室内の空気が汚染される可能性が高くなります。また一般的な換気扇より消費電力も増えます。換気計画の一番の目的は「健康で快適な住環境」であって、エネルギー効率ではありません。
私たちは別の視点から換気計画に取り組んできた結果、空気の澱みを徹底的に減らすことで少ない換気量でも健康的で快適な室内環境が維持できることがわかりました。同時に設備コスト、消費電力、さらに熱損失も減らすことができます。
同じ建物で同じ量の換気をしても、換気計画によって室内環境はがらりと変わります。換気計画で最も大切なことは空気の澱みを無くすことです。結果的に冬季の換気量が減らせ、捨てる熱が減って省エネルギーになることはもちろん、過乾燥を防ぐことができます。もちろん絞りすぎると空気環境が悪くなるので、あくまでもバランスが大切です。
仕上げ材
手や足が触れるところの仕上げ材によっても体感温度は変わります。コンクリートやタイルなどの床材は木や畳の床に比べて冷たいイメージがありますね。実際に仕上げ材の表面温度が同じでも、手や足などの触れている部分から熱を奪う早さが違うのです。マツやスギの床材が21℃で快適に感じる一方、コンクリートや石ですと26℃くらいまで上げないと冷たく感じてしまいます。
金属の手すりも手が触れる部分をやわらかいマツ系の仕上げにしたり、キッチンの天板や洗面カウンターなどを木製にしたりなど、少しでも冷たさや不快さを感じさせないよう気を配ることで、より快適な環境が実現します。
また同じ木を使っても、樹脂でコーティングしたものと、素材の質感を生かした仕上げとでは感じ方が大きく違います。