子どもと作ろう種から育てる未来の森とは

2020.01.30

文 宮島豊 子供と作ろう種から育てる未来の森 代表


「子どもと作ろう種から育てる未来の森」の立ち上げ
 長いこと自然林の再生に強い関心を持っており植樹会などに参加しましたがしっくりきませんでおりました。
しかし2008年に運よく北海道で自然林の再生研究を続けている岡村俊邦氏(当時環境デザイン学科教授)と出会いました。
彼の提案する生体的混撒・混植法は種子採取から苗つくり、植樹に至るまでのプロセスがしっかりしていて、「子供と作ろう種から育てる未来の森」を立ち上げました。

「子どもと作ろう種から育てる未来の森@五天山公園」
2009年、実践の場として札幌市の許可を得て市内西区五天山公園の自然再生ゾーンで活動を開始しました。
現地は採石場跡地で表土がほぼ無く、そこに札幌市が客土し緑化を試みたところです。
当時岡村氏が近隣の原生種から発芽させた苗をみなで植え、さらに周辺の森から種子を採取して自分たちで苗を育て始めました。

かって札幌市が緑化を試したゾーン 肥料の入った土を客土したため、雑草がすごい勢いで育つ。また表土が浅く公共事業で植えた樹木の多くは根を広げることができず枯れている。間違った緑化は山を自然に戻す障害となる。

「厳しい現実」
これまでの研究から、貧栄養で育てた苗を多種類植え、過乾燥と雑草をある程度防ぐため、その周りに砕石をかぶせて植えてきました。私たちの考えではそこから先は自然に任せることを基本にしていました。しかし翌年に過半数がわからなくなるくらい、雑草におおわれてしまいました。
以前視察で10年前に土木工事によって破壊されたところで行われた植樹現場を見ると感動するくらい樹木が茂っていました。そのイメージがあったので、現実とんぽギャップには失望しましたが、「この土地で成功すればどこででも成功する」とも思えました。


「原因を探る」
我々が活動する以前の公園の状況を知る人の話を聞くことができました。
もともと砕石所だったために表土がなく、公園つくりの時に景観上よくないということで、栄養価の高い土を全体に撒いたようです。あっという間に緑化されましたが、そこには牧草などの種が大量に含まれて多くは外来種でした。そのことが原因で雑草が異常に早く成長し、苗に陽射しが全く当たらない状況になっていることがわかりました。

2017年の十勝での見学会の様子 生態学的混撒・混植法により再生された十勝の河川周辺の様子。
もともと一切樹木はなかったところが14年でこのような若い針広混交林の森がうまれました。

「新たな実験」
2014年~2015年にかけて、植樹を3通りの方法で進めました。
1)表土表面を鋤取り、苗を植えその周りに砂利を敷く
2)一年前に防草シートを敷き、植樹の時にはがし、植えた苗の周りに砂利を敷く
3)防草シートを敷き、最小限の切れ目を入れて苗を植えていく。シートは風で飛ばぬように砂利などで抑える。
一年後の成果は
1)ほぼ苗木は消滅
2)これまでよりは雑草の勢いは遅くなるが、結果的には雑草に覆われる。しかし成長の早い樹木は雑草から頭が出て生き延びる。
3)9割の苗木が生き残り、成長も順調。
実際は防草シートというケミカル製品を使いたくなかったのですが、雑草より樹木が成長したら撤去するということで、3)の方向で活動を進めることにしました。
まず植樹予定地に直径3メートル円の防草シートを敷きます。
シートは風で飛ばぬよう石やピンなどで止めていきます。そこに10か所の穴をあけて10種類の苗を植えていきます。
円形にしているのは森の中で、古木が寝返りして倒れ、円形に土が露出します。その部分は倒木により陽射しが差し込み、新たな芽が出てきます。その状況を意図的に作っているのです。
ただし自然の中でその土は肥料けがなく、すぐには雑草で覆われません。

植樹の準備の様子 真っ黒の防草シートを次回植樹予定場所に設置する。できれば秋の植樹のために春敷きこむのがより良いです。五天山公園

「種を拾い苗を作る」
「子供と作ろう種から育てる未来の森」の最大の特徴は、種を拾い苗を作るところにあります。これまで植樹会に参加して納得できなかった理由でもあります。会場にすでに用意された苗木を見て、どこで作らているのか、どうしてこの木を植えるのか、植えた後どうなるのかが全く見えない。植樹会を開くこと自体が目的ではないのか。などと疑問だらけでした。その中で出会った岡村氏の生態学的混撒・混植法は、計画地周辺で、できるだけ多種の原生種の種子を採取し、苗床で発芽させ苗木を作り、失った森に戻し、森の再生を目指す方法です。この時公園樹など出どころのわからぬ樹木や外来種の種は採取しません。





ツリバナの種子を採取している様子 牧場タカラ周辺
ドングリ(ミズナラの種)が豊作でとれた

左下はキタコブシの種子、右上はホウノキの種子 種子の表面が果肉で覆われ、野鳥が食べ、フンとして撒くことで生息域を広げようとしている。この果肉には発芽抑制物質が含まれているため、苗つくりの際は果肉を剥ぎ落す必要がありmさう。

採取した種子はそのタイプごとに苗床に移されます。ドングリやクルミのような大きいい種(重量種)はそのままポットに入れても、直植えでも高い確率で育ちます。
イタヤカエデやホウノキ、キタコブシなどの種は土を入れたバットに撒き、砂利などをそっとその上に撒きます。ここで大事なのは土の作り方です。

ドングリやクルミのように種子そのものが大きいものはそのまま植えるか、ポットに3個ほど入れてそのまま苗にします。

とても重要な「土つくり」
苗を育てる土ですが、肥料を全くいれません。
我々は火山礫3.、赤玉1、腐葉土1の比率で混ぜたものを使います。
木の根はより栄養のあるほうに延びようとします。実際に植えられた土地の環境が苗床の土よりおいしければ根はより広がろうとします。そうでなくてもできるだけ広い範囲で養分を吸収しようと根は活発に伸びます。
逆に商品のように苗木の状態で早く成長させて売ろうとするためには肥料を使います。しかし実際に植えられた土地がそれより痩せていたら根は広がらず枯れてしまいます。
この土で苗床を作ります。

火山礫と赤玉、腐葉土を混ぜた土つくり これらをよくかき混ぜて使います。
ツリバナやホウノキ、キタコブシなど果肉が被った種は丈夫な袋に入れてよく踏んで果肉を取り除きます。鳥たちは種を食べ砂肝で果肉をすりつぶし、種をフンとしてばらまきます。牧場タカラ
バットに土をいれて、イタヤカエデの種子を撒いているところ。この上に砂利を薄く敷き、雪のかぶる外に置きます。
翌年 発芽した苗をポットに移します。いつも3本づつ1ポットに入れています。
このようにポットに入れて半年くらい育てると、いつでも植えられる苗となります。
地植えするまでは、乾燥に弱いので、時々水を撒いてあげます。

「自然林に近い森を目指して植樹する」
いよいよ植樹ですが、より自然に近い森つくりを目指します。直径3mの円をユニットと呼びます。一つのユニットに苗をばらばらに10種類植えます。全部が無事育つことを目指してはいません。10年のうちに10種類の中でその地に適した2~3本が育てばよいと考えています。岡村氏によると100年後には1本の大きな木になっているイメージだそうです。それでも栄養のない苗床で育てられた小さい木々は、やせた現地でも、お子さんでも簡単に植えられ、大半の根が定着します。

20種類くらい苗木が用意できました 五天山公園

防草シートに穴をあけて、ポット苗を植えていきます 江別 東野幌のエコステーションで
直径3メートルの円をユニットと呼びます。このユニットに10種類の異なる苗木を植えていきます。
最後に自分たちが植えた木と位置、長さを記入します。その後どのように成長、または枯れていったかの記録を残します。
植えておしまいではないのです。